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 第1章 琥珀色の地図 【闇の胎動】

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 変わり果てた少年たちの姿に、誰もが言葉を失った。
 街の外れ、小高い丘のてっぺんに、彼らは打ち捨てられたかの如く折り重なり倒れていたのだ。
 街人の見守る中、彼らは駆けつけた魔導士たちの手によって、それぞれ仰向けに横たえられた。
「…………」
 街人たちの表情がいっそう凍りつく。
 少年は3人。どの顔にも生気はなく、閉じた眸の下は黒く変色し、唇は絵の具を塗りつけたかのような紫だった。
「イ……ヤァ……ッ!」
 悲鳴があがる。少年の母親が泣き叫ぶ声。
 狂ったような叫びがあがると、あとはもう止め処がなかった。
 悲鳴と怒号とも似た叫びが、次から次へと小高い丘に響き渡る。
 少年たちの元へは誰ひとりとして近づけない。魔導士たちが近付こうとする者を退けてしまうからだ。
 愛しい息子に触れることもできず、母親たちは悲痛な声で泣き喚いた。
 近づけない。傍に寄ることは許されない。
 疫病ではないと街人たちは知っていた。
 応えは誰しもの胸の裡にある。しかしまともに『それ』と決めつけるには勇気がいった。
 まさかという思い。

 まさか、この聖なる国にまで闇の力が……?

 認めたくはなくとも、現実はそこにある。
 黒と白で対を成す魔導士の、それぞれの長(おさ)が揃って現れた。
 ふたりの長は互いに険しい表情をみせ、にこりともしない。
 白の長が浄化の呪文を唱え、黒の長が横たわる少年たちの傍らに跪いた。
 そっと手を翳す。光が弾けた。
 ゆるく首を横に振り、ふたりは沈痛な面持ちで肩を落とした。
 低く、だがはっきりと黒の長は言ったのだ。

 災い来たる、と。


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